睡眠について

睡眠の発達:林光緒

1. 乳幼児の睡眠

 生後1ヵ月以内の新生児は、1日のうち16~17時間を眠って過ごす。しかし、大人のように6~8時間にわたって眠り続けることはなく、哺乳や排泄のために3~4時間ごとに目をさます。昼夜の差はほとんどなく、睡眠と覚醒を1日におよそ7~8回繰り返す。出生後しばらくすると、睡眠が夜に集中するようになり、日中に起きている時間が長くなる。およそ生後2ヶ月で24時間周期の睡眠覚醒リズムがみられるようになり、生後4ヶ月になると睡眠時間は14~15時間になる。

 新生児の脳波は振幅が極めて小さく、脳波だけでは睡眠段階の判定ができないため、動睡眠、静睡眠、不定睡眠の3つに区分される。動睡眠は大人のレム睡眠に相当する。急速眼球運動がみられることや、心拍、呼吸が不規則になるなどレム睡眠に特徴的な症状が現れるが、体はよく動く。これに対して静睡眠は大人のノンレム睡眠に相当し、体動はなく、静かに眠っている。これらのどちらにも分類できない状態が不定睡眠であり、不定睡眠は成長とともに減少する。出生後半年ぐらい経つと睡眠段階が分類できるようになる。新生児では1日の総睡眠時間のうちの約50%が動睡眠(レム睡眠)であり、成長とともにレム睡眠の割合が減っていく。レム睡眠の割合は、2~3歳で20~25%、5~6歳では成人とほぼ同様の20%近くになる

 生後6ヶ月以降になると、夜間の睡眠時間はあまり変わることはないが、日中の睡眠時間が減少していく。このため、1日の総睡眠時間は徐々に短くなっていく。生後6ヶ月では8割の乳児が1日に2回昼寝をしており、1日の総睡眠時間は12~14時間である。1歳を過ぎると昼寝の回数が徐々に減っていき、睡眠時間は11~13時間になる。2歳になると、ほとんどの幼児が1日に1回しか昼寝をとらなくなる。3歳で昼寝をしない幼児が出はじめ、4歳では過半数の幼児が昼寝をしなくなる。2~5歳の幼児は1日に10~11時間眠っているが、6歳以降の児童期では昼寝をとらなくなり、睡眠時間は8.5~10.5時間になる。

2. 学童期と青年期の睡眠

 学童期では、平均就床時刻は22時前後であるが、学年の進行とともに徐々に就床時刻が遅くなっていく。中学生以降になると、生活が急激に夜型化し、さらに就床時刻が遅れるようになる。その結果、児童期から青年期にかけて睡眠時間が著しく減少していく。2020年にNHKが実施した国民生活時間調査によれば、平日の平均睡眠時間は小学生で8時間37分、中学生では7時間33分、高校生では6時間58分であった。さらに大学生は、生活習慣が不規則になりやすく、あらゆる年齢層の中で就床時刻が最も遅い。これは年齢による影響というよりも、時間的な拘束が緩やかな環境にあることが原因である。高校生と同様、始業が毎日一定時刻に固定されている同年代の看護専門学校生や高等専門学校生と比較すると、大学生の方が就床・起床時刻が15~30分遅く、夜型傾向も高いが、睡眠時間は6時間30分前後と、これらの集団の間にはほとんど差はない。さらにどの集団でも70%以上の人たちが午後に居眠りをしている。睡眠時間の短さと居眠りの多さは、20歳前後の日本人学生の特徴であると言える。

 図1は総務省が2021年に実施した社会生活基本調査の結果に基づいて各年齢層の平日の睡眠時間帯を図示したものである。20~24歳の年齢層が最も就床・起床時刻が遅く、夜型の傾向を示している。25歳以降では反転して、就床・起床時刻が徐々に早くなり、朝型化が進行していく。

図1.  日本人の睡眠時間帯
図1. 日本人の睡眠時間帯
(総務省統計局, 2022より作図)
3. 中高年の睡眠

 20代後半から就床時刻が前進し、朝型傾向を示すようになるが、30~50代では就床時刻がほとんど変わらないため、他の年齢層よりも50代の睡眠時間は短い(図1)。60代以上になる就床時刻が早くなっていくが、就床時刻に比べて起床時刻はそれほど早くならず、むしろ徐々に遅くなっていく。その結果、布団にはいっている時間(就床時間)が長くなる。例えば図1では、85歳以上の睡眠時間帯は9時間を超えている。しかし、高齢になるほど寝つきが悪く、中途覚醒も増えるため、若年者に比べて実際の睡眠時間は短くなる。このように、就床時間が長くなるにもかかわらず、睡眠時間が短くなるために、睡眠効率(睡眠時間÷就床時間)が著しく低下する。

 高齢者は、就床時刻が早いが、寝つきが悪く、中途覚醒が多い。一度目がさめてしまうと、再入眠するまでに時間がかかる。また、徐波睡眠(睡眠段階N3)が少なくなり、レム睡眠も分断化し、睡眠段階N1とN2が増加する。このように、高齢者では全体的に睡眠が浅くなり、睡眠構造が変化する。その結果、日中の覚醒レベルが低下し、うたた寝や昼寝が増えていく。

 睡眠効率は、10~20代までは90%を超えるが、年齢が上がるにつれて低下していき、80歳を超えると70%程度にまで低下する。また、徐波睡眠は10代から20代にかけて顕著に減少し、その後ゆるやかに減少する。40代ではばらつきが大きいが、年齢が上がるにつれて徐々に低下していく。60歳以降になると、徐波睡眠が出現しない人も現れる。

 高齢者で睡眠構築が変化する理由として、加齢に伴う脳機能の低下に加えて、概日リズムが変化することも指摘されている。体温は夕方に高く、早朝に低くなるという日内リズムがみられるが、若年者に比べると高齢者では、一日の最高体温と最低体温との差が少なくなる。その結果、夜間に体温が充分低下せず、睡眠が深くなりにくい。また、概日リズムの位相前進がおこり、体温低下が始まる時刻が早くなる。それによって、就床時刻が早くなる。しかし、体温上昇が始まる時刻も早くなるため、睡眠後半では睡眠を維持することが困難になり、早朝に目覚めやすくなる。