睡眠について

小児の睡眠障害:神山潤

 睡眠に関連した現象には、病的なものばかりではなく生理的なもの、すなわち気にしなくてもよい現象もある。図は筆者の睡眠外来での印象に基づく睡眠関連現象/疾患の年齢推移である。図に示した現象/疾患は以下の本文中には太字で示した。なおこの図に示していない現象/疾患もある。

参考文献:神山潤、睡眠関連病態。小児科診療ガイドライン第4版―最新の診療指針―(五十嵐隆 編集)664-8、2019、総合医学社、東京。


 夜泣きの訴えのピークは7~9ヶ月とされている。朝になったら目覚め、夜になったら眠りにつく、という睡眠覚醒リズムが確立するのは生後3~4ヶ月とされるが、この時期以前には、病的でなくともに「夜間」に目覚めることはごく普通である。これも夜泣きと感じられるかもしれない。睡眠覚醒リズム確立以降で、いつも同じ時間に泣く場合は、夢を見ていることの多いレム睡眠の関連があるかもしれない。夜泣きというと眠りにのみ注意が向かうが、食事、光・社会的接触・運動もヒトの生活リズムに大きく影響する。夜泣きを何とかしようと思ったらスリープヘルスの6項目(1.朝の光を浴びる、2.昼間に活動する、3.夜は暗い環境で休む、4.朝食を摂り夜食を避ける、5.眠りを阻害する嗜好品(カフェイン、アルコール、ニコチン)、過剰なメディア接触を避ける、6.入眠儀式の尊重)の確認が大切である。なおこの7項目は大人にも当てはまる。

 入眠儀式は眠る前のルーチンである。内容(歯磨き、着換え、翌日の準備、マッサージ等々)は様々だが、取り入れるとお子様の寝つきがよくなり、夜間の中途覚醒が減るとの報告がある。眠るとは無防備で、危険な行為である。一定の手順を無事に踏むことができるほどに周囲の環境が安全だ、と確認できることが、「睡眠中枢」がしっかりと機能して眠るには大切であるに違いない。

 気にはなるが気にしなくてもよい睡眠中の動きの代表は乳幼児の良性睡眠時ミオクローヌスである。6か月頃までの赤ちゃんが繰り返す手足や身体のピクつきである。寝ている間にのみ見られ、目が覚めるとそれらの動きは急に止まる。実際には睡眠関連てんかんとの区別はかなり難しいこともある。気になったら動画を医療者に見てもらうことをお勧めしたい。歯ぎしりは歯の摩耗がない限り気にしなくてよい場合が多いようである。寝入りばなや寝起きに頭を前後、左右へ振る、四つ這い位で躯幹を前後に振る、仰向位で躯幹を左右に回転させる等の動きには睡眠関連律動性運動障害という名称がついている。ただしこの現象は生後9か月児の6割近くが呈するともいわれ、病的意義は少ないと考えられる。

 睡眠中の注意したい症状にいびきと無呼吸がある。どちらも睡眠呼吸障害(多くは閉塞性睡眠時無呼吸症候群)の症状である。ただし寝入りばな、寝返り後、レム睡眠中に呼吸は生理的にも停止する。無呼吸イコール病的、ではないのである。ただし睡眠呼吸障害は程度がひどければ治療の必要がある。3歳以上で息を吸い込んだ時に胸骨の下端が凹むような場合には上気道に閉塞機転が存在する可能性があるので、医療者に相談することをお勧めする。

 睡眠関連てんかんの発作症状には注意してほしい。治療を要する場合が少なくないので医療者に相談していただきたい。周期性四肢運動障害では主として足に繰り返し同じような動きが寝ている間に見られる。主として足に異常感覚を生ずるむずむず脚症候群とともに、これらの症状のために眠れない場合には治療が必要となることもある。むずむず脚症候群の場合、表現が稚拙な幼少児や発達障害児の場合適切な訴えができず、「騒いで寝つかない」と捉えられることもあるので注意が必要である。

 ノンレム睡眠関連睡眠時随伴症には3つのタイプがある。目覚めたときに意識がはっきりしない状態が続いて錯乱状態に陥る錯乱性覚醒、おもな症状が「歩き回り」の睡眠時遊行症、叫び声が特徴的な睡眠時驚愕症の3つである。ご家族の中に同じような症状を示したことのある方がいる場合が多く、ストレスや興奮、発熱が誘因となる。なだめると興奮するので、周りに危険なものを置かないようにして見守る、が対応の基本となる。多くは思春期には自然に出現しなくなるが、程度のひどい場合には投薬をする場合もある。医療者にご相談いただきたい。

 眠らない/なかなか寝ない(遅寝)乳幼児の場合、様々なきっかけがある。兄や姉の通園が始まり、遊び相手がいなくなり、スクリーン時間が増え、外遊びが減った、夫婦不和で児の前での諍い、不規則な食事、昼間に過度に寝ていた、深夜まで父とともにテレビを視聴していた、などの例を経験したことがある。夜間に赤ちゃんが目を覚ます、と悩んだ方もおいでだったが、夜寝入ったら朝までぐっすり眠る乳幼児ばかりではない。最近では不眠の乳幼児=神経発達症といった短絡的な結びつきを助長する情報が氾濫し、養育者を過度な不安に陥れている現状もある。

 5歳を過ぎても週に2回以上睡眠中に無意識に排尿してしまうことが3か月以上続くようだと睡眠時遺尿症と診断する。対応の基本は焦らず、怒らずだが、年長者での悩みは深刻である。最近ではガイドラインに従った治療が主流である。

 筆者の睡眠外来で一番多い小中高生の訴えは「朝起きることができない」、すなわち覚醒困難である。この訴えは起立性調節障害のほか、睡眠不足症候群や睡眠覚醒相後退障害でも生じる。「眠れない」が続くと睡眠不足になるが、寝る直前まで勉強し頭が冴えて「眠れない場合」と、電子機器使用等による自らの意思による「眠らない場合」との区別は大切である。また夜型あるいは睡眠覚醒相後退障害の方が遅寝となり朝の覚醒困難に陥る場合もある。さらに慢性の睡眠不足状態にありながら、休日の朝寝坊や、授業中の居眠りによる睡眠補填をできない方が睡眠負債を貯め続け、ある日突然登校日の朝に覚醒困難に陥る場合もある。睡眠関連の症状は生物学的背景のみならず、心理的背景、社会的背景も相まって出現する。登校日には覚醒困難があっても休日には朝から友人と外出ができる。詳細な病歴聴取、本人の意向確認が対応には重要である。