睡眠について

睡眠障害の治療:内山真

 睡眠障害という用語は、睡眠に関連した疾患ないし症候群全般をさす。米国睡眠医学会の睡眠障害国際分類第3版(ICSD-3)の疾病分類では、68の睡眠障害が不眠症、睡眠関連呼吸障害群、中枢性過眠症群、概日リズム睡眠・覚醒障害群、睡眠時随伴症群、睡眠関連運動障害群の6つのグループに分類されている。それぞれの睡眠障害により起こっている睡眠の問題が異なっているおり、その原因についても多彩である。したがって、睡眠障害の治療については、診断ごとに異なった対策が必要である。ここでは睡眠障害の6つのグループについて治療の概要を述べる。

1. 不眠症の治療

 不眠症の夜間症候は、入眠困難、睡眠持続性困難、早朝覚醒などのために眠ることが困難で、結果として期待するほどに睡眠がとれないという不満足としてまとめられる。これらにより生じる日中の不調感や機能不全が一定期間続く場合に不眠症と診断される。

 睡眠に対する不満足の原因となる睡眠困難には、睡眠を起こす神経機構(睡眠中枢)の働きが弱まって睡眠が浅く不安定になる睡眠維持困難、体内時計の後退により睡眠時間帯が遅れてしまうため生じる入眠困難、体内時計の後退により睡眠時間帯が早まってしまう早朝覚醒、覚醒を保つ神経機構(覚醒中枢)の過剰な活動により目が冴えて眠れない入眠困難がある。睡眠薬を用いた不眠症治療は、薬理学的に睡眠を望ましいものに変えるアプローチである。睡眠中枢に働きかけるベンゾジアゼピン受容体作動薬、体内時計に働きかけるメラトニン受容体作動薬、覚醒中枢の働きを調整するオレキシン受容体拮抗薬がある。

 睡眠に対する不満足のもう一つの背景にあるのは、睡眠への過大な期待である。睡眠の問題が長く経過すればするほど、睡眠に対する過大な期待や欲求が大きくなり、睡眠に関する不満足感が認知の側面から増強される。健康のためにぐっすり眠らなければいけない、長く眠らなければいけないと考える人がいる、効率的な社会生活のために十分な時間眠っておかなければと考える人もいる。こうした要求は、良く眠れなかった次の日に不調であったとか、何かで失敗したという経験があると次第に増強され過大なものとなりやすい。

 不眠症の認知行動療法では、行動療法的なアドバイスに基づいて自ら成功体験を積み重ねることで睡眠に対する過大な要求やあり得ないような理想的睡眠の希求、つまり睡眠への認知を適正化させる治療法である。行動療法的アドバイスとしては、睡眠スケジュールに対する働きかけとして、眠たくなってから就床するという刺激制御法、寝床の中で過ごす時間を遅寝早起きで適正化する睡眠時間制限法などがあり、心理面への働きかけとして就床前の種々のリラクゼーションなどがある。

2. 睡眠関連呼吸障害群の治療

 睡眠関連呼吸障害群では、睡眠中の舌の沈下により気道の通過障害が起こって大きないびきをかき、完全な閉塞に至ると呼吸が停止する。呼吸が停止すると血液中酸素濃度の低下により覚醒反応が起こり、その結果、睡眠が浅くなり、時に中断される。こうした睡眠妨害による睡眠の質的低下のため、昼間の強い眠気、気力や集中力の障害が生じる。睡眠時無呼吸症候群は、高血圧、不整脈などの循環器系疾患の発症・悪化要因となることが明らかになっている。

 日中の眠気を主訴として受診する場合が多い。患者によっては、睡眠時無呼吸による中途覚醒や睡眠維持困難を訴えて受診することもある。診断には、終夜睡眠ポリグラフ検査および夜間の血中酸素飽和度の測定が必要である。治療としては、経鼻的持続気道陽圧法、歯科装具による舌沈下防止などがあり、いずれも睡眠中の無呼吸の原因となっている気道の通過障害を改善することで睡眠を改善する。

3. 睡眠関連運動障害群の治療

 周期性四肢運動障害では、睡眠中に繰り返す、四肢の不随意運動が原因となって覚醒反応が起こり、睡眠が浅くなり、時に中断される。中途覚醒や睡眠維持困難が生じて、日中の過剰な眠気が出現することもある。家族に睡眠中の動きを観察してもらうと、下肢や上肢にぴくつくような不随意運動が反復してみられる。下肢に起こる場合には、外来刺激無しに生ずるバビンスキー兆候や脊髄逃避反射によく似た運動が繰り返し観察される。これが疑われた場合には、終夜睡眠ポリグラフ検査で睡眠中の周期的な四肢不随意運動をとらえる必要がある。

 レストレスレッグス症候群では、就床と同時に下肢に異常な感覚が生じ、下肢をじっとしていられず著しい入眠困難が起こる。患者は眠れないために下肢に異常感覚が生じると思い込んで異常感覚を訴えない場合もあるため、必ず異常感覚について問診する必要がある。異常感覚の訴え方は、足がむずむずする、足がほてる、足の奥がかゆいなど多彩である。異常感覚のため脚を動かさずにいられなくなること、歩くなどの運動により異常感覚が軽減することは本症候群に特徴的である。局所の冷却により軽快することもある。

 治療の方針は、睡眠の問題の背景にある異常感覚や不随意運動を抑えることである。ガバペンチンエナカルビルは、抗てんかん薬として使用されているガバペンチンのプロドラッグであり、中枢性に異常感覚を和らげる働きを持つ。ドパミン作動薬としては、非麦角系のプラミペキソール、あるいはロチゴチンが用いられる。ドパミン作動薬を使用する場合には、吐き気などの消化器系の副作用に注意する。ベンゾジアゼピン系薬剤であるクロナゼパムも単独あるいはドパミン作動薬と併用で用いられることがある。

4. 概日リズム睡眠・覚醒障害群の治療

 概日リズム睡眠・覚醒障害で最も多くみられるのは、若年者における睡眠・覚醒相後退障害である。夏休み中に夜更かしのくせ、試験勉強で徹夜をしたあと、夜のアルバイトなどをきかっけとして、体内時計の後退のため睡眠可能な時間帯が遅れてしまい、夜中や早朝の一定の時刻にならないと入眠できず、ひとたび眠りにつくとぐっすり眠ってしまい昼頃にならないと起きられない。

 この場合、体内時計を早めることが、一番の解決法になる。体内時計は眼から入った太陽の光を認識することで朝を知る仕組みを持っているため、日光が顔にあたるよう窓際にベッドを移し、朝の一定時刻に家族が必ずカーテンや雨戸を開けることにする。体内時計が徐々に早まってくると、入眠できる時刻も早くなる。こうした生活指導が奏効しない場合には、専門医へ紹介する。

 高齢者では、若年者と反対に睡眠時間帯が極端に早まって夕方から眠ってしまい、夜中には完全に目覚めてしまうという睡眠相前進型がみられることがある。これには、早朝から朝の日光をカーテンやサングラスで避けるように指導する。

5. 中枢性過眠症の治療

 薬物治療の必要な中枢性過眠症としては、ナルコレプシーと特発性過眠症が代表である。これらでは、目を覚まして日中の活動を支える覚醒中枢の機能が低下するため、過剰な眠気が生じる。ナルコレプシーでは、日中の過剰な眠気に加えて、笑ったりびっくりすると筋肉の力が抜けてしまう情動脱力発作、寝入りばなに出現するかなしばり様症状である睡眠麻痺や寝入りばなの幻覚(入眠時幻覚)がみられる。

 まず日中の過剰な眠気に関しては、終夜睡眠ポリグラフ検査と反復睡眠潜時検査を用いて、診断と過剰な眠気の程度を把握することが重要である。治療については、睡眠不足を防ぐような生活指導に加え、メチルフェニデート、ペモリン、モダフィニールなどの精神刺激薬を用いた薬物療法が行われる。メチルフェニデートとモディオダールは一定の資格要件を満たした医師によってのみ行われる。

6. 睡眠時随伴症群の治療

 ねぼけを主訴とする睡眠障害に出合った場合、夜間にみられる複雑部分発作との鑑別が重要である。このため一般脳波検査を行い、てんかん性脳波異常の検索が必要である。夜驚症と睡眠時遊行症は生活指導と経過観察、レム睡眠行動障害は専門医へ紹介を原則とする。

 夜驚症や睡眠時遊行症は、学童期にみられる睡眠時随伴症である。エピソード自体が暴力的な動作を含むことはまれである。しかし、行動を止めようとした場合や覚醒させようとした場合に、完全に覚醒できず錯乱に陥り、覚醒させようとした人間に対して暴力的行動をとることがある。通常夢体験は伴わず、速やかに覚醒させることが困難である。

 通常は、1〜2週の経過で自然に消失するため、このことを家族に十分説明する。転落や転倒の原因になりうる障害物を片づけ危険に配慮した対策を立て見守る。入眠後一定した時刻に症状が出現する場合、予想される時刻の15〜30分前に優しく覚醒させ、子どもがいったん覚醒したら再入眠をさせることで予防的対処が可能である。頻度や程度が著しくねぼけ中の危険が避けられない場合にのみ、ベンゾジアゼピンや選択的セロトニン再取り込み阻害薬が用いられることがある。

 レム睡眠行動障害は、60歳代以上にみられる睡眠時随伴症である。男性における頻度が高い。レム睡眠行動障害では、レム睡眠中の夢が行動となって現れてしまうために起こる。悪夢、寝言を伴い、暴力的動作が夢内容と一致している点が特徴的である。多くは明確な原因疾患を見出せない特発性であるが、パーキンソン病、多系統変性症、レビー小体型認知症の初期にこの症状が出現することがある。診断に際しては、終夜睡眠ポリグラフ検査が必要となるため専門医に紹介する。薬物療法としては、ベンゾジアゼピン系薬剤であるクロナゼパムを就寝前に投与する。転倒が極めて多く起こるため、寝室の障害物を片づけ、ベッドの使用を中止し、マットなどでより低い位置で眠るようにする。

参考文献

健康づくりのための睡眠ガイド2023 .
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/001181265.pdf
内山真:睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版. じほう, 東京, 2019.