睡眠について

睡眠環境(光環境・温熱環境):樋口重和

1. 光環境の影響

 不規則な睡眠習慣や夜更かしをしてしまいがちな人は、光環境の見直しが有効かもしれない。就寝や起床のタイミングの決定には脳の概日リズムが深く関わっている。ヒトの概日リズムの周期は24時間より少し長いため、夜型化しやすい特徴があるが、それを防ぎ、概日リズムをリセットしているのが朝の光である。目から入った光は脳の視交叉上核にある体内時計に直接作用する。したがって、朝の起床後にカーテンを開けて光を室内に取り込むことや、通勤や通学の時間帯に光を浴びることが重要である。一方で、夜の光は朝の光とは反対に、概日リズムを夜型化させてしまう。私たちが普段家庭で使っている照明の明るさでも概日リズムの夜型化に作用することが報告されている。また、光の色味も影響しており、ブルーライトを相対的に多く含む白色の照明(色温度の高い照明)は夜の光として好ましくない。LED照明を使えば明るさと色味を簡単に調節できるため、夜用の光として普段より少し照度を落とし、色味も電球色に切り替えることが望ましい。具体的には、普段の就寝時刻の3~4時間前から夜用の光を意識し気を付けたい。寝室だけではなく、リビングやダイニングの光も調節し、パソコンの画面などもナイトモードに切り替えるのがよい。スマートフォンからの光も影響している可能性があるが、使用自体が脳の興奮につながるため、就寝前の使用は避けた方がよい。また、光の影響は年齢によって異なり、子どもは大人よりも夜の光の影響を受けやすいことが報告されている。子どもの夜更かしが気になる場合は、夜の光環境の見直しは特に重要と言える。

2. 温熱環境の影響

 温熱環境については睡眠中の室内温度が睡眠に直接影響する。実験室で実施した研究では、暑くもなく寒くもない中性温度(裸の場合は29℃)での睡眠が最も安定した睡眠がとれるが、それよりも気温が高くなる、または低くなるにつれて、徐波睡眠(深い睡眠)とレム睡眠の減少が大きくなり、浅い睡眠と覚醒が増えることがわかっている。中性温度からの温度差が同じ場合、室温の低下の方が上昇よりも睡眠が阻害されやすい。その理由として、睡眠中は体温調節機能の低下により体温維持が難しく、生命の危機から身を守るため、覚醒することで体温の低下を防いでいるためとされている。しかし、日常生活の中では、気温が低い環境でも、寝具や寝衣による対策をとれば、睡眠への影響を防ぐことができる。むしろ、夏の暑さの方が問題となる。暑さ対策として、扇風機でもある程度の効果が確認されているが、近年の日本の熱帯夜を考慮すると、扇風機だけでは十分と言えず、就寝中の冷房の使用が推奨されている。特に日本では、暑さに加えて湿度の影響も大きいため、冷房は湿度対策にもなる。同じ高温環境でも湿度が高いと睡眠が阻害される。冷房を使う際は、寝入りばなだけの使用では不十分である。タイマーを使う場合、睡眠前半の4時間くらいの使用が必要とされている。