睡眠について

睡眠障害を診断するための検査:八木朝子

 睡眠の問題を抱えている場合、その症状として、なかなか寝付けない、夜中に何度も目が覚めてしまう、目覚めた後に再び眠れない、朝早く起きてしまうなどの、“不眠症状”と、日中眠たくて仕方がない、仕事中寝てしまう、眠たくて朝起きられないなどの、“過眠症状”に大別される。人によって症状が相互に関連することがあり、また経過が異なるため、症状の詳細な聞き取りが重要である。また、診断のために行う検査は、病院や専門クリニックに入院する場合と自宅で行う場合があるが、いずれも一晩の睡眠中の生体情報の測定を行う。検査の種類と診断する睡眠障害について示す。

1. 睡眠ポリグラフ検査(Polysomnography : PSG)

 この検査は、睡眠専門の医療機関や総合病院などで、検査技師が装着や測定を行うことが一般的である。睡眠の状態を評価するとともに、呼吸の異常や神経活動の異常を検出する。そのため多数の測定パラメータがある。脳波(前頭部、頭頂部、後頭部から導出)、下顎の筋電図、左右の眼球運動の記録から、睡眠の量(寝付くまでの時間、睡眠時間、中途覚醒時間など)や質(ノンレム睡眠、レム睡眠、深睡眠、覚醒反応など)の評価を行う。鼻孔と口腔の両方にカニューラ(管)を着けて気流を、胸部と腹部にベルトを着けて呼吸の運動を、そして指先から血中の酸素飽和度を、またお腹の上のセンサでは睡眠中の寝姿勢を測定することで、睡眠中の呼吸の異常を検出する。呼吸の異常とは、呼吸が一時的停止する“無呼吸”や、呼吸が弱くなる状態の“低呼吸”が、繰り返して発生していることを指す。この検査では、睡眠1時間あたりの無呼吸(アプネア)や低呼吸(ハイポプネア)の回数をAHI(エイエチアイ)という診断のパラメータとして算出する。

 さらに、左右の下肢から記録する筋電図では、睡眠中に発生する不随意な周期的な動きを検出する。このような動きが多発する場合は、脚の動きが原因で目覚めやすくなる可能性が生じる。そして、PSGでは心電図も記録するため、睡眠中の不整脈も検出する。特に朝方のレム睡眠中には不整脈が発生しやすいことが知られている。

睡眠ポリグラフ検査(Polysomnography : PSG)

 カメラとマイクの役割:睡眠中に発生する異常な運動や行動の映像と、それらに伴う発声や発語は、部屋に設置されたカメラとマイクを介して行う。

 検査技師による夜間の監視:専門知識がある検査技師が常に見守る(監視)場合がある。終夜の記録中に電極やセンサが外れないよう、また不良な記録がないよう見守る。もし患者の身体にアクシデント(重篤な不整脈、喘息発作、てんかん発作など)が発生すれば安全確保のために直ちに対応を行う。

 CPAP圧の設定:閉塞性睡眠時無呼吸症と診断された患者のうち、医師の判断がある場合にCPAP治療が開始される。CPAPでは空気圧を用いて気道を拡げる。必要な圧力(治療圧)は患者によって異なるために、治療圧を調べるためにPSGを行うことがある。

 PSGを行うのは:診断のためにPSGを行う必要がある疾患は、成人と小児の閉塞性睡眠時無呼吸症(ただし、成人の場合は条件を満たせば、在宅睡眠無呼吸検査での診断が可能である)、中枢性睡眠時無呼吸障害群、中枢性過眠症群(ナルコレプシータイプ1、同タイプ2、特発性過眠症)、睡眠時随伴症群に属するレム睡眠行動障害(RBD: REM Sleep Behavior Disorder)、睡眠関連運動障害群の周期性四肢運動障害である、仮にPSGを行った場合に、その時の所見が診断の確定に役立つとされる疾患には、ノンレム関連睡眠時随伴症(睡眠時遊行症や睡眠時驚愕症)、睡眠関連律動性運動障害や睡眠関連てんかんである。

2. 在宅睡眠無呼吸検査(Home Sleep Apnea Testing : HSAT)

 この検査は、症状から閉塞性睡眠時無呼吸症を明らかに疑った場合にその診断のために行う。一般的には、医療機関でセンサの装着方法や装置の動作についての説明を受けてから、自宅にて就寝前に自分で取り付けて検査する。翌朝には、自分でセンサを外し医療機関に返却をする。後日医師から検査結果の説明があり、そのうえで診断される。測定は呼吸系パラメータであり、気流、酸素飽和度度、いびき音と、加えて胸部と腹部の換気運動や体動の測定も行う場合もある。在宅で行うメリットは、普段通りの生活状況と睡眠環境で評価できることである。

3. 睡眠潜時反復検査(Multiple Sleep Latency Test : MSLT)

 昼間の眠気を客観的に評価することで、ナルコレプシーなどの中枢性過眠症群の診断に用いる。前の晩の睡眠ポリグラフ検査に続けて、翌日の日中に行う。2時間ごとに、4回から5回、暗い部屋でベッドに横になり、「眠ってください」と指示があり、眠りつくまでの時間を調べる。

4. 覚醒維持検査(Maintenance of Wakefulness Test : MWT)

 昼間の覚醒度を客観的に評価する。診断された過眠症患者の薬物治療の効果を調べる場合や、職業ドライバーなどの運転免許更新時に指定されて行う場合がある。2時間ごとに5回、うす暗い部屋でベッド上半座位姿勢を保ち、「起きていてください」との指示があり、覚醒している時間を調べる。